しあわせになる綜合運輸
選挙は休暇をとってやり、落選したら職場に復帰できるようにする「選挙休暇制度」の導入を呼びかけているそうだ。
戦後の政治史のなかで初めての本格的な政権交代は、50年余りにわたった自民党政治の限界を、社会のさまざまな局面であぶりだしたように見える。
高度成長で拡大する一方だった公共事業政策は、減少に転じた人口と高齢化の波のなかで、どう切り替えればいいのか。
空港と鉄道と道路と、「より速く遠くへ」を求めてきた交通体系をどう修正するのか。
また、増える人口に増産を重ねた食糧政策は、「コメ余り」が久しく言われながら、「減反」以外の方策を兄いだせずに、ここまできている。
この10年余り、政府が旗を振った市町村合併は、明治以来の硬直化した国と地方の仕組みを、新たな時代の要請に応えて変換できたのだろうか。
一連の問題は、政治家ばかりでなく、われわれ住民にも意識転換を迫っているようにも思える。
こうした「限界状況」に対して、政治が大きくハンドルを切るタイミングにあるのに、民主党政権はそれに応えているのだろうか。
政権の舵取りに大きな影響力をもつ小沢一郎氏は、選挙による政権の安定を優先するあまり、時代の要請を見誤ってはいないか。
政治全般の限界状況の一つの局面が、「地域主権」政策に集約されているのではないかー。
政権交代の時期をはさんで、著者は構成者の菅沼氏とともに、この1年余り、東北各地を歩き、朝日新聞の東北版や全国面を通じて、時代の節目を切り取りつつ提言してきた。
私たちの脱「国家」宣言。
これをまず、道路建設をケーススタディに大くくりに示し、さらに、2人の「奥の細道」の旅から見えてきた、脱「国家」をめぐる具体的な提言を列挙したい。
脱「国家」は脱「道路」から-地方にカネを渡し、判断させよ政府は、全国の道路建設をいったんストップしてはどうか。
マインドコントロールから解き放たれると、異なる景色が見えてくる。
これまで、長い間、「道路を造れば人が来る。
企業も進出する」と信じられてきた。
疲弊した地域も、道路を造りさえすれば何とかなると、あたかも道路は万能であるかのごとく言う人はいまだに数多い。
地方からの陳情項目でも、道路は圧倒的にトップである。
しかし、道路が通ったが故に、かえって町がさびれたという話もある。
都市に人が吸い寄せられる、いわゆる「ストロー現象」である。
すでに、面積当たりの道路延長でも、わが国は圧倒的な道路先進国となっている。
急激な人口減少時代に突入し、財政的な制約の大きい今こそ、国は上からの発想の転換をはかる時ではないか。
骨格的な道路は国がほぼ完成させた。
これ以上、国が指令して十把一絡げに道路を造り続けるのはやめて、今後は、個別路線ごとに地方に判断させてはどうか。
その上で、医療や教育より道路を優先したいと地方が判断するのなら、財源を渡して地方が整備をすればよい。
いったんストップするのは、脱「国家」の第一歩として、まず、道路での地域主権を実現する準備のためである。
「道路は万能」という幻想政権交代により公共事業にメスが入った。
鳩山政権は発足直後に、まず、八ツ場ダムの建設中止を宣言した。
その後も、2010年度予算の公共事業費を、対前年度比18・3%減と大幅削減を行った。
公共事業の改革は地方分権や出先機関の廃止、さらには公務員制度改革にもつながる重要なものである。
その中でダムは強力な反対運動を伴うことが多いが、設置の必要性の根拠となる計画自体、相当以前に策定されており、その後の社会情勢の変化を十分反映させているかどうか疑問のあるものも少なくない。
このため、相対的にみると、事業の中止は道路よりも比較的容易である。
一方、毎年度の公共事業費のおよそ30%弱を占める道路に対する反対運動は少ない。
整備されればすぐに、何がしかの利便性の向上をもたらすと考えられている。
それ故、著者が岩手県知事時代に道路事業を中止した際も、地元での相当強い抵抗があった。
すなわち、道路こそが公共事業改革の「本丸」であり、政府が目指す「コンクリートから人へ」が本物かどうかは、脱「道路」が実現できるかどうかと同義であり、その成否に政権交代の真価が問われているのである。
ところで、「道路神話」ができ上がった理由の一つには道路特定財源の存在がある。
田中角栄元首相によって50年以上前に創設され、豊富な財源を背景に、道路建設が国土形成で最優先となった。
途中でカネがなくなると、暫定税率で増収を図ってきた。
この特定財源は福田康夫政権下で廃止され、一般財源化されたが、その後の麻生政権までは、事実上、ほぼ同額が道路に充当された。
地方からみると、「道路以外に使えない財源なら、とにかく道路を造ろう、造り続ける理屈をひねり出して使い切ろう」という発想になった。
このことは、人口減少時代になっても「道路は万能」という幻想につながってきた。
確かに、道路建設は雇用対策としても、地域経済上極めて有効であったのは間違いない。
現在の地方交付税制度が、公共事業を実施すれば交付税の配分が有利になる仕組みであることも、こうしたハード事業を後押しした一因である。
もう一つは、中央の官僚(特に、道路計画の策定を独占している技術系官僚)と族議員のもたれ合いである。
国土交通省という一つの役所の中で、計画部門と実施部門を官僚が行き来し、計画を肥大化させて次々と事業を作り出した。
その挙句、退職後に関係業界に天下りをする構造と、地元に道路を造ることが票につながる国会議員が結びつけば、時の総理も手を下せない巨大な〝聖域″が誕生する。
ここが司令塔になって国の直轄や補助事業を通じて全国に道路を造り続けてきた。
地方の首長や議員たちも自分たちの選挙のために、こうした天の声にマインドコントロールされてしまった。
まさに「道路神話」である。
政府は、この聖域に大ナタをふるうことが必要だ。
長い年月をかけて「命の道路」としてやっとの思いで整備しても、その先の病院には医師不足で常勤医がいないなどというようなことがあってはならない。
「コンクリートから人へ」の実現のために見直しにあたっては、三つの視点が重要である。
一つ目は、道路の必要性の判断権を中央の族議員や道路官僚から地方に渡すことだ。
今後は、道路にしか使えなかった財源を医療や福祉、教育などあらゆる分野を選択できる真の一般財源に切り替え、地方で住民のニーズに沿った判断ができる体制づくりが急がれる。
こうなると首長も頭の切り替えが必要だ。
依然として道路さえ造れば何とかなると思っている公共事業至上主義の首長も多いが、ハード優先からソフトを重視した地域の魅力づけにこそ知恵をしぼるべきである。
「公共事業が命」と信じ込んでいる首長の暴走を防ぎ、真の住民のニーズを問うために、大規模な道路建設については住民投票の実施を義務づけることがあってもよい。
全国知事会もこれまで地方分権を唱えながら、財源の懸念から国が実施する道路事業や河川事業の受け入れには極めて消極的だったが、その姿勢の転換を迫られる。
地方議会も道路の必要性について十分審議することなく、建設促進について首長と一緒になって国に陳情して回るような議会からの脱皮が必要である。
「コンクリートから人へ」を唱えながら、与党の議員の中にも、国、地方を問わず道路派が多数存在するが、政権与党にはこうした身内の抵抗を乗り越えられるかも試される。
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